オレだって宇宙人だぜ - 『第9地区』

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ある日、ほかの惑星から正体不明の難民を乗せた謎の宇宙船が、突如南アフリカ上空に姿を現す。攻撃もしてこない彼らと人間は、共同生活をすることになる。彼らが最初に出現してから28年後、共同居住地区である第9区のスラム化により、超国家機関MNUは難民の強制収容所移住計画を立てるのだが……。


7歳の娘(21世紀生まれ)は宇宙人はタコ型だと信じている。この昭和テイストが誰の影響か見当もつかないが、それはさておき映画には色んな宇宙人が登場する。『未知との遭遇』の何だかぼーっとしてる宇宙人もいれば、『マーズ・アタック』のグロテスクで凶悪な宇宙人だっている。しかし『E.T』にしろ『プレデター』にしろ、ほとんどの宇宙人は高度な文明を持っていて人類よりも高次元の存在として描かれる。何しろ彼らは宇宙船を持ってるのだから。


それなのに、それなのに。『第9地区』の宇宙人(通称「エビちゃん」)はちょっとどうかと思うくらい情けない。一応宇宙船は持ってるし、よく分からないけどスゴい武器も持ってる。しかし画面に登場するエビちゃんはゴミ箱をあさったり、好物のネコ缶欲しさに武器を売ったり、立ちションしたりとかなり情けない。もうちょっと宇宙人としての誇りを持ってほしいものだ。


そんなダメ宇宙人エビちゃんの中でほぼ唯一話の分かる男が我らがクリストファー。幼い我が子に自分達の星を見せるために人知れず20年かけてあるモノをコツコツ作った頑張り屋さん。


そしてそのクリストファーと共に行動することになるのが小役人ヴィカス。彼は主人公やヒーローとしての素質をまったく持ち合わせておらず、特別いい人間でも悪い人間でもなくて、上司に言われた命令を愚直にこなすだけの「便利な仕事人」でしかない。『WALL・E』に出て来た人間と同じで、何が正しくて何が正しくないのかを自ら判断することを放棄していて、生きながら死んでいる(リビング・デッド)のと同じような存在だ。


そんなヴィカスが自らの保身の為とはいえ、自分の意志で考え、行動し、戦い、裏切ったり、裏切られたりして、最後の最後に「守ろう」とする姿に涙ちょちょぎれ。これで燃えなきゃ嘘でしょ。


胸がいっぱいになったところで、ダメ押しのあのラストシーン。これがすごく良かった。号泣。ヘタな続編作らずにここで終わって欲しい。超オススメ。


(その他)
・ヴィカスがすごくなまった英語で話しているのが気になったけど、パンフの解説によれば、あれはアフリカーンス語というオランダ系白人が話す言葉らしい。それに対してきれいな英語を話すクーバス大佐等はイギリス人。アフリカーナはイギリスの統治下に置かれていたという歴史から、イギリス人からは「格下」と見られている。ここにも明確な差別が存在しているが、自分より格下の存在であるエビちゃんしか見ていないヴィカスはそのことに気づいていない。
・『クローバーフィールド』や『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』がPOVという手法にこだわり過ぎている(最後までビデオカメラの映像)と感じていたけど、『第9地区』は途中からあっさりとそれを放棄していたが、それでも全然違和感なかった。どっちがいいかは分からないけど。
ピーター・ジャクソンが今作を、ギレルモ・デル・トロが『永遠のこどもたち』を全面的にバックアップしてプロデュースしたような話はすごくいいと思うけど、日本ではこういうの無理なのかねぇ。駿とかもっともっと若い後継者を援助して育てるべきだろ。