アトムは1993年に死んだ-「アトム今昔物語」

映画「ATOM」も公開中ですが、今回は手塚治虫のマンガ「アトム今昔物語」について。


「アトム今昔物語」には全3巻の「手塚治虫漫画全集」版(以下「手塚全集」版)と「サンケイ新聞」版が存在しますが、ここでは主に「手塚全集」版について書きます。


アトム今昔物語(1) (手塚治虫漫画全集)

アトム今昔物語(1) (手塚治虫漫画全集)


66年にテレビアニメ版「鉄腕アトム」が終了して、その後日談として67〜69年にサンケイ新聞で連載されたのがこの「アトム今昔物語」。いわば「スピンオフ」というか「外伝」的な扱いなんだけど、かなりダークでショッキングな内容なので子供向けとはいえない。


おおまかなストーリーはこんな感じ。

偶然起きた事故に巻き込まれ、2017年の世界から1969年にタイムスリップしてしまったアトム。帰る方法はなくエネルギーが切れた時点で動けなくなることが確定。なるべくエネルギーを節約したいが、困ってる人を見過ごせない性格が災いしあっという間にエネルギーは残りわずかに。はたしてアトムは元の世界に帰れるのか?


これ読んで「どうせ最後は未来に帰れるんでしょ?」と思った人も多いだろうが、アトムはこの世界で文字通り「死んで」しまい、最後には「爆発」してしまうのだ。それもかなり悲惨な状況で。


アトムの「死」というと、前述したテレビアニメ版の最終回を思い出す人も多いはず。

最終回は1966年の大晦日に放送された。内容はアトムが地球を救うために太陽の活動を抑えるロケットを抱え太陽に突入するというもので、当時の子供達に与えた影響は大きかった。
鉄腕アトム (アニメ第1作) - Wikipedia


↓アニメ版最終回ダイジェスト(手塚治虫コメント付)


アニメでは「アトムはそのまま帰ってこなかった」となってるので「死んだ」ことになったが、具体的に「死んだ」場面は出てこない。そして「アトムの続行」を望む声が高まる中、「実はこの時にアトムは宇宙人に助けられて...」として始まったのが「サンケイ新聞」版「アトム今昔物語」(連載時のタイトルは「鉄腕アトム」)なのだ。ただし「手塚全集」版ではこの部分は改変されているが、これについてはまた後日。


話はアトムの「死」に戻る。


ややあってベトナム戦争真っ最中のベトナムにやってきたアトムは、最後のエネルギーを使ってある村を爆撃から救う。ちょうどお産の最中だったが、アトムの活躍で無事子供が生まれた。赤ん坊を見て満足しながらアトムは動かなくなる。



アニメの最終回では自らの命とひきかえに地球を救ったアトムはここでは同じように村人達を救う。「アトムは動かなくなったけど村人を救えて良かったね」とウルウルしていたら、ここから事態は急変する。ここでは書かないけど「とんでもない鬱展開が待っている」とだけ言っておこう。はっきり言って私にはトラウマになってる。どーしてくれるんだ!


手塚治虫はアトムという異世界からの第三者の目を通じてベトナム戦争や人種差別といった1969年(連載時には「現代」)の世界の諸問題に対して「中途半端な正義の無意味さ」を訴えたかったのだろうか?だからといって、その役目を子供たちのアイドルであるアトムにさせるというのが、さすがスピルバーグと並ぶ鬼畜残酷超人手塚治虫だなー、と感心しつつもどっと落ち込んでしまった。当時の少年少女はこれ読んでどう思ったんだろうか?


それから24年後の1993年になって、アトムはエネルギーを入れてたった1日だけ復活するが、最後には自ら山奥に飛んで行きそのまま死んでしまう。



↓朽ち果てたアトム。


アトムはこうして死んでしまうがこの物語にはちゃんと続きがあり、ある意味ではアトムは「復活」することになる。この展開はかなり面白いのでオススメです。


サンケイ新聞」版の「アトム今昔物語」は2004年になって「アトム今昔物語復刻版」のタイトルで単行本が発売されました。このもう1つの「アトム今昔物語」についてはまた次回。


アトム今昔物語 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

アトム今昔物語 (MFコミックス フラッパーシリーズ)