「殺人鬼」&「殺人鬼2-逆襲篇」

殺人鬼 (新潮文庫)

殺人鬼 (新潮文庫)

夏期合宿のため双葉山を訪れた親睦団体「TCメンバーズ」の一行。人里離れた山中での楽しいサマーキャンプは、突如出現した殺人鬼によって、阿鼻叫喚の地獄と化した。次々と殺されてゆく仲間たち…手足が切断され、眼球が抉りだされ、生首は宙を舞う。血塗れの殺戮はいつまで続くのか。殺人鬼の正体は。驚愕の大トリックが仕掛けられた、史上初の新本格スプラッタ・ホラー。


殺人鬼〈2〉―逆襲篇 (新潮文庫)

殺人鬼〈2〉―逆襲篇 (新潮文庫)

あいつはやはり生きていた!双葉山中に潜むあの殺人鬼が、麓の街に姿を現わしたのだ。凄惨きわまりない殺戮の狂宴が、いま再び始まる。他人の“目”になる不思議な能力を持った少年・真実哉との対決の行方は?そして明かされる、驚くべきその正体とは…。ミステリー界に一大衝撃をもたらした、新本格スプラッタ・ホラーの第二弾!あなたはこの恐怖に耐えられるか。


先日書いた「ナゴム、ホラーライフ」でちょっとふれた「殺人鬼」と、その続編「殺人鬼2-逆襲編」について改めて書いてみる。


「殺人鬼」は推理小説作家の綾辻行人が89年に発表したスプラッター・ホラー小説。発表当時はいわゆるミステリーファンからかなり批判されたらしい(amazonでも賛否両論)。それもある意味では当然で、とにかく残酷描写がハンパない。例えホラー好きであってもドン引き間違いなしの超ハードゴア。


よく「『13日の金曜日』のジェイソンのようだ」と評される「殺人鬼」だけど、実際はかなり違う。「殺人鬼」はジェイソンみたいに優しくない。ジェイソンはほとんどの場合一撃で相手を殺すが、「殺人鬼」は「どれだけ苦しませながら殺せるか?」を常に考えているので、首をしめてる相手が死にそうになったら途中で一度手を止める。被害者は一瞬安堵するが、実際には「殺人鬼」は「こんなに簡単に死なれては面白くない」と思っているだけであり、最終的にはあのまま死ねなかったことを後悔しながら、さらに苦しみ抜いて死ぬことになる。


加えて「13日の金曜日」を含めた多くのスラッシャー映画の被害者が、ほとんど「こいつなんか死んでもいいじゃん」と思わせるムカつく若者であるのと対照的に、「殺人鬼」の被害者は善人であるだけでなく、少年だったり、幼児(!)だったりする。「さすがにこいつは助かるだろう」と思ったキャラでも問答無用にこれ以上考えつかないくらい極悪非道な方法で殺されることになる(特に「殺人鬼2」の冒頭は読んでいて超凹まされた)。


逆に過去のスラッシャー映画との共通点もあって、例えば「殺人鬼2-逆襲篇」の主人公は超能力を持つ少年なのだ。「13日の金曜日」でも「エルム街の悪夢」でも、シリーズが続いてマンネリ化した頃に超能力を持った人物が登場して対決させてきた。そして前作の生き残りがちょっとだけ登場するのもお約束的展開でうれしい。


さらに小説「殺人鬼」としての特長は、作者が「推理トラップ」を仕掛けていること。なので、広い意味ではこれも「推理小説」の1つなのだ。この点についても賛否両論のようで、「ただのスプラッターではない」とする擁護派と、「中途半端なミステリー要素がむしろ蛇足」とする否定派に別れる。個人的にはこれでもアリだとは思うけどね。


改めて、綾辻行人は何故こんな小説を発表したのか?


「殺人鬼」はこのような前文から始まる。

ーあの頃の奇妙な情熱を懐かしみながらー


「あの頃」というのは何を指すのか?80年代のスプラッター・ブームの事だ。

とにかくずーっと「怖い映画」は大好きだったんですけど、一気に熱が高まったのはやっぱり八十年代前半のあのころ、ですねえ。八十五年に『死霊のはらわた』が公開される何年か前から、なんだかもう狂い咲きのようにスプラッタ映画が次々と...。
ナゴム、ホラーライフ」より


このスプラッターブームは89年の宮崎勤事件で急速に収束し、同時に「ホラーバッシング」が始まった。正義という仮面をかぶった世間はホラー映画こそが元凶であると訴え、レンタル屋のホラービデオの数は一気に減少した。「殺人鬼」はそんな時期にあえて発表されたのだ。

マスヒステリーともいうべきこの異様な状況に直面して、ホラーを愛してやまない綾辻行人が、"健全な常識"の暴力に怒り狂い、「半ばその怒りに衝き動かされて書き上げた」作品こそ、この『殺人鬼』なのである。
大森望による「殺人鬼」解説より


「殺人鬼」という小説は、綾辻行人がホラーを題材にきまぐれで書いたモノではなく、一歩間違えばミステリー作家としての地位を棒に振るリスクを背負ってまで、世間の風潮に対して「NO!」を突きつけた声明だったのだ。だからこそここまで鬼気迫る小説になったとも考えられる。


綾辻行人のミステリーは好きだけどスプラッターはちょっと...という方や、スプラッターは映像があってナンボという方にあえてオススメしたい。その結果「どよーんのツボ」*1を押されたとしても責任持たないけどね。それはともかく続編の「復活篇」まだ〜?


(参考)ナゴム、ホラーライフ-THE KAWASAKI CHAINSAW MASSACRE


ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ (幽ブックス)

ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ (幽ブックス)

*1:ナゴム、ホラーライフ」に登場する言葉で、例えば「悪魔のいけにえ」を見た後で「どよーん」としてしまうことを指す。