嘘がないのはプロレスだけだ-「レスラー」

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かつては人気を極めたものの今では落ち目のレスラー、ランディ(ミッキー・ローク)。ある日、ステロイドの副作用のために心臓発作を起こし、レスラー生命を絶たれてしまう。家族とはうまくいかずストリッパーのキャシディ(マリサ・トメイ)にも振られ、孤独に打ちひしがれる中で、ランディは再びリングに上がる決意をする。


「世の中嘘ばっかりだけどさぁ」


10数年前、やきとり屋で酔っぱらったIさんが私に言った(Iさんは独身でビンボーだった私によく飯をくわせてくれた恩人のような人)。


「世の中嘘ばっかりだけどさぁ、...嘘がないのはプロレスだけだね」


今も昔もまったくプロレスに興味がなく、どちらかというと「プロレス=八百長」くらいにしか思っていなかった私は、「Iさん、それはないでしょうwww」と笑った。しかしIさんはふだん見せない真剣な顔で言った。


「そんなことないよ」


川崎チネチッタで「レスラー」を観た。先に書いたようにプロレスにもプロレスラーにも思い入れがないせいもあってか、私はミッキー・ローク演じるランディに対して、同情するというよりも「自業自得じゃないか!」と呆れながら観ていた。生活を立て直すチャンスはこれまでもあったはずだし、映画の中でも最大級のチャンスが訪れる(「ターミネーター4」観た直後だったんで、これが「2度目のチャンス」じゃん!とか思ってた)。しかしそのチャンスですら、誰でもない自分のせいでモノにできないのだ。本当にダメ人間だと思った。


それでも私は(多分他の誰でも)ランディを嫌いにはなれない。彼はずっとファンの期待に応えようとしただけだったのだから。自分の幸せよりもファンの幸せを優先させただけだったのだから。そして彼は嘘をつかなかった。自らの失敗を誰かのせいにせず、適当な嘘でごまかそうともしなかった。彼は自分のことを「最低のクズだ」と言った。


「プロレスに嘘がない」のかどうかは今でも分からない。しかし少なくともランディの生き方に嘘はなかった。体中の傷にも、流れる血にも嘘はなかった。そんな生き方ができるヤツがこの世に何人いるというのか?彼は「最低のクズ」でありながら、「最高の男」でもあった。


すでに涙でボロボロの自分にとどめをさすようにブルース・スプリングスティーンのエンディング曲「レスラー」が流れ感動は頂点に。この曲はミッキー・ロークが自らブルースに依頼をしたことで生まれたらしい。

『レスラー』の出来栄えに確信を覚えた彼は、かねてから友人だったブルース・スプリングスティーンに手紙を出し、映画のために曲を作ってくれないかと依頼した。「映画の制作費がカツカツなのはわかっていたから、ブルースに”好意に甘えさせてくれ”と頼んだんだ」と、ロークは言う。そんな彼の事情と心情を察したスプリングスティーンは、欧州ツアーの旅先でオリジナル曲の「レスラー」を作り、「自由に使ってくれ」と申し出た。
オフィシャルサイト>PRODUCTION NOTEより


これまたいい話だなぁ(泣)。私同様にプロレスが苦手な人にあえてオススメ。


(参考)
ブルース・スプリングスティーン「レスラー」 - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記