話すよりも先にまずは殴る-「チェイサー」


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デリヘルを経営する元刑事ジュンホ(キム・ユンソク)のところから女たちが相次いで失踪(しっそう)して、ときを同じくして街では連続猟奇殺人事件が発生する。ジュンホは女たちが残した携帯電話の番号から客の一人ヨンミン(ハ・ジョンウ)にたどり着く。ヨンミンはあっけなく逮捕されて自供するが、証拠不十分で再び街に放たれてしまい……。


「マーダー・ウォッチャー殺人大パニック」での柳下さんによるナ・ホンジン監督へのインタビューが面白かったのと、いくつか絶賛のレビューを読んだので気になって観て来ました。面白かった!


犯人(ヨンミン)の殺害方法がとにかくひどい。凶器は基本ノミとカナヅチといういわゆるツールボックス・マーダーで、マジで「悪魔のいけにえ」に匹敵する恐ろしさ。スプラッター描写に慣れきっている私ですら戦慄するくらいなんで、苦手な方なら劇場から逃げ出したくなること必至。それに対抗するのが主人公の元刑事ジュンホのガチ暴力。話すよりも先にまずは殴る!ついでに蹴る!近くにイスがあったらもちろん投げる!とやりたい放題。主人公が善人ではなくてむしろ限りなく悪人に近いのがこの映画の魅力の1つ。


どうしても比較されてしまう「殺人の追憶」と比べると、ポン・ジュノ監督がシリアスなシーンの合間にナンセンスなギャグを好んで入れてストーリーに緩急をつけるけのに対して、「チェイサー」はそんな「緩」はほとんどなくて125分間延々と「走って」「殴って」また「走って」が続きほとんど息をつくヒマがない。こっちはただ観ているだけなのに、見終わったあとは主人公と同じく気力も体力も(あとささやかな希望も)奪われること間違いなし。


そんな中で唯一笑って見られるのが被害者の娘とダメ主人公の一連のやり取り。この娘がいることでちょっとだけ救われるなぁ、...と思っていたら後半あんなコトになりさらにヘコむ。あそこまでせんでもええやないかー(泣)。


あと、主人公達が追いかけっこする町並がすごく良かった。道が狭くて坂が多くて教会が多いところが、どことなく私の故郷の長崎を思わせるんだけど微妙に違う。観てる方は楽しいけど、撮影する方は超大変そう。何でも公開後、映画の悪影響でこの町の地価が下がってしまったらしい。ひー。


才能ウンヌンというより、監督のやる気と勢いがヒシヒシと感じられる映画でした。暴力描写にある程度の耐性がある方にはオススメ。


(その他)
・ヨンミンが友人の部屋の壁に「黒い××」を描いたのはフィクションだけど、「犯人が美術の才能があるが色弱だった」という事実に基づいてるそーです。

・犯人役が叶井俊太郎さんに見えてしまって困った。似てるよね?

・「元刑事が非合法な手段でひたすら女を捜す」「後味が超悪い」点で深町先生の「果てしなき渇き」を思い出しました。映画化するなら韓国の監督でぜひ。


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果てしなき渇き (宝島社文庫)

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