妄想映画館「処刑列車」

ファーストカット


相模川にかかる鉄橋の上で止まっている快速アクティーを真横からのアングルで遠くの固定カメラから撮影。
天気は悪く小雨まじり。
「列車が鉄橋で止まっている」ことをのぞけば日常の風景。
音楽はなしでカメラも動かないまま30秒ほど過ぎた時点で運転席付近で発光。
同時にほんの一瞬だけ銃を撃つカットがインサート。
カメラは固定されたままでさらに30秒ほど経過。
今度は最後尾の車両から発光。
再び銃のカットがインサート。
カメラそのままで30秒ほど経過。
画面中央にぼんやりと「処刑列車」のタイトル。
ぼんやりとタイトル消える。


画面切り替わって列車内の風景。
最低限のオープニング・クレジット。
シンプルで優雅な音楽が次第にチューニングが狂っていく。
列車内にいる人達(サラリーマン、学生、子連れの母親、老人等)を順番に映していき、最後に「○月○日○時○分快速アクティー車内」のテロップ。


先頭車両にいる一見ごく普通の男がカバンから金属バットを取り出し、運転席の窓を破壊。
その瞬間音楽止まる。
あっけに取られる乗客。
驚く運転手と男のやり取り。
男の手には拳銃。
無機質な声で
「あの鉄橋の上で列車を止めろ」

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誰でも「自分が映画を作るとしたら〜」みたいな妄想をすると思いますが、これは私が「いつか映画化して欲しい!」と思っている小説「処刑列車」をもしも自分で映画化するとしたら?という妄想を書いたモノです。ただの会社員が映画を作れるはずはないんですが、妄想なんで大目に見て下さい。


今回の原作本がこちら。


処刑列車 (角川文庫)

処刑列車 (角川文庫)

朝のラッシュアワーを過ぎた頃、東海道本線、小田原始発・東京行きの『快速アクティー』が、茅ケ崎・平塚間の鉄橋で突如停止した。何者かによって乗っ取られたのだ。『この電車は彼らが占拠した』。自らを彼らと名乗る犯人グループは運転手と車掌を射殺し、すべての乗客を一部の車両に閉じこめた。そして、殺戮が始まった―。無差別な悪意が暴走する戦慄のホラー。


この小説の特長の1つは「特定の主人公がいない群像劇」なところ。たまたま乗り合わせたマクレーン刑事みたいな人は出てこないし、犯人や警察関係者にもキーマンたる人物はほとんど出てこない。


もう1つは「犯人が何の要求も出さずに殺戮を繰り返す」こと。一応犯人側にも「動機」はあるんだけど、この動機がかなりデリケートな問題なので、納得できる人は少ないと思われる(私も納得できない)。


「動機の弱さ」は否めなくても、それ以外の設定は超好み。列車を乗っ取った犯人は複数犯で、乗客の中にもこっそり混じっている(!)。だから乗客は隣にいる人も犯人かもしれないと疑心暗鬼になったり、反撃しようとしたら思わぬ相手から攻撃されることになる。鉄橋の上に止まってるので逃げる事も外部からの接触も極めて困難。


乗客の中には色んな人がいる。「交通事故で瀕死の息子の元に急ぐ父」「幼子を抱えた母親や妊婦」「会社をクビになったことを家族に黙ってる中年」等々。彼らはそれぞれの想いでこの状況を打破しようと試みるが、ほとんどの場合それは失敗に終わる。そしてテレビで生中継されるこの事件は、事件と無関係な人達の「悪意」をも浮かび上がらせ、二次的被害が拡散していく。言ってみれば「バットマンがいない世界にジョーカーが現れた」ような状況。


実際問題として、あまりにも人が無意味に死に過ぎることや、ほとんどが列車の中の描写なので撮影が難しい(セットだとこの緊張感が出せないかも)気がするんで、映画化は難しいと思うんだけどね。妄想なんで勘弁して下さい。