隣のマイケルくん-「ハロウィン」

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ハロウィンの夜、白いマスクをかぶった少年マイケル・マイヤーズ(ダエグ・フェアーク)は、姉のほか3人を惨殺。精神病院でルーミス医師(マルコム・マクダウェル)の治療を受けることになる。しかし、17年後のハロウィンの日、病院を脱出したマイケルは再び白いマスクを手に取り、恐怖の殺人鬼と化す。


シアターNで見ました。ガチで怖かった!ホラー映画だから怖いのは当たり前と思われるかもしれないけど、「ハロウィン」の怖さはちょっと違うのだ。


ホラー映画のキャラクターに「生身の人間」は少ない。フレディ・クルーガーも「ヘルレイザー」のピンヘッドも違うし、貞子は幽霊みたいなもんだし、ゾンビだってもう人間じゃない。ジェイソンを「生身の人間」とするのも無理がある。そう考えるとレザー・フェイスとレクター博士くらいしか思いつかない。


で、「ハロウィン」のマイケル・マイヤーズ。彼も「なかなか死なない」点ではジェイソン的な部分もあるけど、ギリギリ「生身の人間」かと思う。さすがに首を切り取ったら死にそうだし(ちなみには「ハロウィン」シリーズはオリジナルの1作目と今作しか見てないので、あしからず)。


映画のなかでゾンビや幽霊が出てきてももちろん怖いんだけど、どこかで「所詮ゾンビも幽霊もいないしな」と冷めてる部分がある。だから遊園地の絶叫マシンみたいに安心して恐怖を楽しめる。でも「悪魔のいけにえ」を見た時に感じたのは「テキサスには本当にこういう一家がいるかもしれない」というリアリティによる恐怖だった。だからこそただの人間のレザー・フェイスがどんなモンスターよりも怖かったのだ。


改めて「ハロウィン」について。実はカーペンターのオリジナル版を見たのは去年が初めてで、その時の感想は「たるい」だった。時代が時代なんで(78年)、妙に間延びした演出が(好き嫌いはあるだろうけど)まったく受け付けなくて、殺されそうな被害者に対して「もう、早く殺されろよ!」とイライラしたくらい。マイケルに対しても「なぜ殺人を犯すのか?」がほとんど描かれないのでキャラクターがつかめなかったし、フレディ・クルーガーなんかと比べると見た目も地味なんで、あまり好きにはなれなかった。


そんな私が「ロブ・ゾンビが監督だから一応見とくかな」という軽い気持ちで見た感想が冒頭に書いた「ガチで怖かった!」。


今回のリメイク版はオリジナルではほとんど描かれなかった少年時代にかなり時間を割かれている。家族(特に父親)や同級生から「オカマ!」とののしられる一方で、小動物を虐待した少年時代。そしてある日同級生や家族を無表情で惨殺する。それは「日頃の恨みを晴らした」というよりは、まるで「昨日猫を殺したから今日は人を殺そう」と思っただけのようで、特別な理由は見当たらない。マルコム・マクダウェル演じるルーミス医師は言う。「彼の目の奥には闇が広がっている」


以前ディスカバリーチャンネルで「反社会性人格障害」の特集番組を見た。


反社会性人格障害」の定義はこちら


連続殺人等の凶悪な犯罪者の中にはいわゆる「精神病」患者も大勢いるが、こちらは「病気」なので(基本的には)薬等で治療が可能。それに対して「反社会性人格障害」は「病気」ではないので治療は不可能。定義としては色々あるみたいだけど基本は「良心の呵責の欠如」。つまり良心がなく善悪の区別がつかない。番組では子どもを殺した反社会性人格障害の犯人にインタビューしていた。見た目や話し方は一般人と変わらないが、まったく表情を変えずに「最初に男の子を殺したんで、次は女の子を殺さなくちゃと思ったんだ」とか言っててびびった。


マイケル・マイヤーズはまさしく「反社会性人格障害」だ。善悪の区別もなく、(多分)悪意も殺意すらもない。「15年間親切にした」看守だから助ける、なんてことはしない。皆平等に差別なく殺す。唯一の例外が生き別れになった妹だけ。しかし妹に会って何をするべきかは彼にもおそらく分かっていない。しかも筋肉隆々の大男。これが怖くないはずがない。


一説によれば、池田の児童殺傷事件の犯人宅間守は「反社会性人格障害」だったそうだ。フレディや貞子は現実にはいないけど、マイケル・マイヤーズは自分の近くにもいるかもしれない。そう思うと怖くて仕方がなかった。


その他
・マイケルのオカン役のシェリ・ムーン・ゾンビがすっごく良かった!これまでみたいな派手な演技じゃなくて、「家族を殺した息子をそれでも愛しようとしながら絶望に生きる」という難しい役をきっちりこなしていた。好き!

・少年マイケル役のデーグ・フェアも超良かった。KISS Tシャツが渋い。直球の疑問として、彼の両親は息子がこういう映画に出ることをどう思ってるんだろう?

・「善悪の区別がつかない連続殺人犯が、妹にだけは執着して」というのをどこかで聞いたなーと思ったらマンガ「モンスター」だった。でも順序からすると「モンスター」が「ハロウィン」を下敷きにしたのか?

・「屋敷女」のジュリアン・モーリーとアレクサンドル・バスティロが続編を監督するみたいなんでこっちも期待!