ミシェル・ゴンドリーについて

その昔ビョークがソロ活動を始めた時、自身のPVを監督する映像作家を探す為に世界中のありとあらゆる映像作品を見て回った結果たった3本だけが気に入ったが、その3本全てがミシェル・ゴンドリー作だった、という伝説がある。ソースを忘れてしまったのでウラが取れないけど、あり得ない話ではないと思う。


ゴンドリーのPVを見て初めて「凄い」と思ったのは、Cibo Mattoの「Sugar Water」(93年)。


多分普通に見ただけでは混乱すると思うので、あえて解説を入れてみる。


1)0:00 二分割された画面でそれぞれベッドに眠る2人。左が本田ゆか(以下、Y)で、右が羽鳥美保(以下、M)。


2)0:15 2つの窓を合わせると「SUGAR WATER」の文字(ただし鏡像)。左の窓から植木鉢が落ちるが、右では地面から植木鉢が上がってくる。


3)0:29 左ではシャワー、右では(多分)砂糖を浴びる。このあたりから「右の映像は逆回転」と分かる。


4)1:08 右でMが投函した手紙を左でYが受け取る(その内容は後で判明)。同時に猫が右から左に移る(歌詞にも「Black Cat」が出る)。


5)1:29 左で手紙を読んだYは困惑して別のポストに投函。その直後に右でMがその手紙を受け取る。直後に左で少年がボールを蹴って店のガラスを割る。


6)1:45 左でYが乗った車が事故。はねた相手は何とM。


7)2:00 丁度中間地点で先ほどの手紙が並ぶ。そこに現れたのは「YOU KILLED ME」の文字。すなわち「YがMを殺す」というメッセージだった!


8)2:11 中間地点(2:00)を境にカメラの対象が代わり、左にM、右にYが映る。左のMは起き上がり、皆が止めるのを聞かずに歩き出す。右のYは車で立ち去る。


9)2:27 5)の逆に、左でMが投函した手紙を右でYが受け取り、右で少年が窓ガラスを割る。


10)2:51 4)の逆に、右からYが投函した手紙を左でMが受け取る。直後に猫が右から左へ(ここでも歌詞に「Black Cat」)。


11)3:31 3)の逆で左でMが砂糖を浴び、右ではYがシャワーを浴びる。


12)3:48 2)と同じように窓に「SUGAR WATER」の文字だが今度は正しく読める。左で窓を開けた拍子に植木鉢が落ちてしまう。同時に右では植木鉢が地面から上がってくる。


13)4:00 再びベッドに。ただし1)と逆に左がMで右がY。



さて、問題。この映像はどのように作られたか?


答えは単純。基本的に同じアングルで同じ映像を同じタイミングで2回撮っただけ。そして片方を「鏡像」&「逆回転」してから2つの映像を並べたのだ。中間地点で必ずMの上にある手紙をアップにするのがポイント。ごめん、間違えた。撮った映像は1つだけで、それを「鏡像」&「逆回転」したものを並べていた。


つまり、1台のカメラさえあればこの映像は誰にも撮れるのだ。特別な機材やCG等まったく使っていない。ただ一発撮りゆえにタイミングを合わせるのにものすごく苦労したそうだけど(撮影時に羽鳥美保は最後に窓に書く文字のスペルを間違ってNG連発したらしい。あちゃー)。


ゴンドリーのPVを見ていつも思うのは「誰かに見せたい」「この楽しさを誰かと共有したい」ということ。「ピタゴラスイッチ」みたいに「がんばれば自分でもやれる」という面白さに溢れているからね。


そんな想いもあって以前MUSIC-VIDEODROMEというPV紹介サイトを作ったのでした(YouTubeができて存在価値もなくなったのでやめましたが)。


というわけで次回は劇場最新作「僕らのミライへ逆回転」(サイテーな邦題)の話に続きます。


(追記)
Directors Labelの付属小冊子に「SUGAR WATER」制作のメモが載っていた。分かりやすい。