カラックス〜やってるか?-「TOKYO!」

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殺人の追憶』のポン・ジュノ、『恋愛睡眠のすすめ』のミシェル・ゴンドリー、『ポーラX』のレオス・カラックスという国際的に注目される3人の映画作家が、それぞれの視点で東京を描いたオムニバス映画。出演には香川照之蒼井優加瀬亮妻夫木聡竹中直人ら人気と実力を兼ね備えた豪華キャストが集結。独自の文化やライフスタイルが渦巻く大都市東京を、個性あふれる3人の鬼才監督がどのように読み解くのか、目が離せない。


個人的には3人ともすごく好きな監督なので大はずれする事はないと思っていた。実際ポン・ジュノの「シェイキング東京」、ゴンドリーの「インテリア・デザイン」はそれぞれの個性がよく出ていて楽しめた。ただし「オムニバス作品の中の1本」として。


問題は永遠の「恐るべき子供」レオス・カラックスだ。タイトルは「メルド」。直訳した「糞」という漢字が画面いっぱいに表示された時点で気がついた。カラックスが「オムニバス作品の1本」で語られる映画なんか撮るはずがない、と。
(以下、ネタバレ含む)


「メルド」のストーリーは、突然「下水道の怪人」と呼ばれる謎の男が現れて東京を恐怖に落としいれる、というモノ。

↓これがドニ・ラヴァン演じる「怪人」。


これだけ聞くとポン・ジュノの「グエムル」みたいに不条理なサスペンス・ホラーのようだが、この映画は実はコメディなのだ。この「怪人」が現れる場面では堂々と「ゴジラのテーマ」が流れる。「クローバー・フィールド」でもエンディング・テーマに「ゴジラのテーマっぽい音楽」をかけて「ゴジラへのリスペクト」を表現していたが、そんなまどろっこしいことはせずそのまんま流す。とはいえ、カラックス自身は実は「ゴジラ」にそこまで思い入れはないらしい。

ゴジラ』の最初の作品を見たのは私がシナリオを書いてからだ。すでに東京の下水から現れ出て東京を攻撃する創造物のアイデアはあったが、怖いモンスターという意味では『ゴジラ』の影響を受けている。私の3歳の娘が『ゴジラ』が大好きで、映画を作る前に私も娘と一緒に見たが、音と音楽がいいと思った。映画はファルス(笑劇)のようなものだから笑いをとるために『ゴジラ』の音楽を使うことにした。

『TOKYO!』レオス・カラックス監督インタビュー


「娘いるんだー」とか「ゴジラが好きな3歳児って...」とかも気になるけど、ここではっきり「笑劇」と述べてるがポイント。


そして、渋谷に現れた怪人は(渋谷駅南口の歩道橋で)手榴弾をバラまきその場に居合わせた人を皆殺しにする(コメディじゃなかったの?)。ちなみにこの撮影はゲリラ撮影だったらしい。見たかったなぁ。そして、その後捕まった怪人は裁判の時に動機を尋ねられ「人が嫌い」「中でも日本人が嫌い」(!)と答える。「東京」の映画を撮るために日本に来てるのに、こんなセリフ言わせるなんて...アリエネー。


もっともコメディっぽかったのは怪人が話す独特の言語「メルド語」。世界で3人しか話せない(!)という特殊言語なんだけど、ただ話すだけじゃなく身振り手振りを加えるのだ(「チャーリーとチョコレート工場」でウォンカとウンパルンパ族の長老が話すシーンを思い出して欲しい)。裁判官が日本語で質問→通訳がフランス語に翻訳→メルド語で身振り手振りの質疑応答、という流れがシュール過ぎて赤塚不二夫のマンガを見てるようだった。


裁判の結果、画面いっぱいに「死刑(漢字)」と出たり、最後の最後に「次回、NY編に続く」と出たりと、中学生の考えたマンガみたいでおかしくてしょうがなかった(誰も笑ってなかったけど)。レオス・カラックス版「みんな〜やってるか?」と言ってもいいと思う。あの映画でもラストにはでかい「糞」が出てきたっけ。


パンフレットには川口敦子と、青山真治のレビューが載ってた。川口さんは「(他の2人と比べて)断固、我が道をゆくその頑さで光る」と評し、青山さんに至っては、おそらく「TOKYO!」のレビューを依頼されただろうに、「メルド」の話しか書いていない。曰く「十年やそこら平気で約束をすっぽかすかと思えば、ある日なに食わぬ顔で現れるなり私たちに不意打ちを食わせて微笑んでいる」。


確かに、本国で不遇な扱いを受けたサッカー選手を招待したら、感謝される前にいきなりぶん殴られた。そんな感じの衝撃(笑劇)だった。


個人的にはカラックスにはこういう小規模なコメディが向いてるとずっと思ってたので感激した。「ポンヌフの恋人」みたいな重い映画の後にこういう映画を撮れてれば、その後の作品もまた違ってただろうなぁと思う。今度こそ今度こそ長編新作お願いしますよ!一生ついてくからさ!


その他
・「グエムル」では「ジャージへの偏愛」を見せていたポン・ジュノ監督でしたが、「蒼井優にガーター」って...。ピンポイント過ぎて参った。ちなみに監督は自分と同い年。
・ちょうど公開された「20世紀少年」だけど、絶対ポン・ジュノが監督した方が面白かったに違いない(彼は浦沢直樹の大ファン)。
・「インテリア・デザイン」は途中までは「結構普通の話」と思ってたら後半やってくれた。人間椅子
藤谷文子は素っ裸で町を走ってがんばってました。
・全然興味なかったHASYMOのエンディングテーマが思いの外かっこよくて帰ってすぐにiTSで購入。


(参考)

webDICE-「僕はもう35ミリで映画を撮らないかもしれない」レオス・カラックス


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レオス・カラックス―映画の21世紀へ向けて (リュミエール叢書)

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