アレは演技ではない-「イースタン・プロミス」

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ロンドンの病院で産婦人科医をしているアンナ(ナオミ・ワッツ)のもとに、ロシア人の少女が運び込まれる。しかし、出産の直後に少女は命を落とし、日記と赤ん坊が残された。そこに記された内容に危険を感じながらも、赤ん坊の家族を見つけ出そうとするアンナ。彼女はあるロシアン・レストランにたどり着き、ロシアン・マフィアに雇われているミステリアスな男ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)に出会う。


(ネタバレ含みます)

金曜日の夜、川崎109シネマズでの最終上映回に滑り込みで観に行きました(20時開始なのに20:13に会場に着いた)。ガラガラかと思ったら結構人が居てびっくり。みんなそんなにヴィゴのチンコが見たいのか?

前作「ヒストリー・オブ・バイオレンス」でもスプラッター的な派手さはないけど、医学的にみて正確無比な人体損壊映像を見せつけてくれましたが、今作でもその流れは健在。死体を処理する為にヴィゴが死体の指を切断するシーンのあっさりとした生々しさ(指の「切株」がしっかり映る)は夢に出そうなくらいイヤでした。今年の「切株」映画大賞(そんなのはない)は「ランボー最後の戦場」で決まりかと思ったら「イースタン・プロミス」がもっていくかもしれない。


ヒストリー・オブ・バイオレンス」のDVDで1番驚いたのは映画本編ではなくメイキング。タイトル通りバイオレンス・シーンがたくさん登場する映画なのに、現場の雰囲気がとても楽しそうでアットホームなのだ。もちろんホラーやサスペンスの映画の現場が同じようにピリピリしているハズはないと頭では分かっているけど、だってクローネンバーグですよ。だって「ビデオドロームに死を!」ですよ。撮影中に周りのスタッフが息しただけで腹の中からグチャグチャの銃を取り出して問答無用に殺すんじゃないかと思ってたよ(映画と現実の区別がついていないけど、いつもの事なので放っといて下さい)。

そのメイキングではスタッフ、キャストが「フィッシュ・フライデー!」と叫んで「魚」のTシャツを着ているシーンが数多く収録されている。これはヴィゴがたまたま着てきた魚のTシャツを皆が褒めたところ、ヴィゴが皆にプレゼントしたらしい。そこから全員が金曜日にそのTシャツを着る事になった、そうなんだが、何とクローネンバーグまでがそのTシャツを着てた。あの神経質そうな白髪と眼鏡で魚のTシャツって。おじさん本当にびっくりしたよ。


話は「イースタン・プロミス」に戻る。

この映画の魅力の9割はやはりヴィゴの存在感と言っていい。「ホラーやサスペンスの映画だからって現場がそうではない」とは書いたが、あのヴィゴはどう見たってマフィアそのものだ。カメラの前には紛れもなく彼があの佇まいで存在していたのだ。私がスタッフならオシッコちびって逃げ出していたかもしれない。とにかくアレは演技とは思えない。後半に判明するある事実により、劇中の彼の行動は実は「演技」だったと判明するのだが、劇中の登場人物だって言うはずだ。「アレは演技なんかじゃなかった」と。

町山さんのポッドキャストによれば、ヴィゴはロシア語の勉強(セリフの半分はロシア語)と役作りのために「たった1人でシベリアに行って荒野を彷徨い、現地のマフィアにも接触」したらしい。...って、ヴィゴさん、あんた凄すぎるよ。あのタトゥーはまさか本当に彫ってないよね...。ボスの息子(ゲイ)との微妙な関係もこの映画の見所の1つだけど、確かに「男が掘れる惚れる男」としての魅力に溢れている。

そんなこんなで生まれたのが例の「サウナで全裸の格闘シーン」。鬼気迫るとはまさにこの事。「チンコ映ってんのかなー」とか軽い気持ちで見てたら、途中から口ポカーンとして見入っちゃったよ。劇中のサウナの客みたいに。


ナオミ・ワッツだって正当な演技を見せていたけど完全にヴィゴの影に隠れてたなー。クローネンバーグ&ヴィゴのコンビは今後ともぜひ継続していただきたい。滑り込みで見た価値大アリでした。オススメ。


ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]

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