ハッピー・フィート

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ハッピー フィート [Blu-ray]

ハッピー フィート [Blu-ray]

歌が命の皇帝ペンギンの世界。歌で心が伝えられなければ、一人前の大人になれないと言われる中で、マンブルは致命的に音痴なペンギンだった。歌の代わりにダンスで心を伝えようとするが、ほどなくエンペラー帝国から追放されてしまう。ひとりぼっちになったマンブルの自分探しの大冒険が今始まる。

スターチャンネルで見ました。

主人公マンブルは人一倍不器用なペンギン。しかし一目惚れした彼女に認められる為にダンスコンテストに出場し、ライバル達と熾烈なバトルを繰り広げることに。南極を舞台にダンスに青春をかけたかわいいペンギン達によるサスセスストーリー。ご家族揃って楽しめます。

↑こちらが私が予告編とかで想像していたストーリー。「かわいい動物CGアニメ」として認識していたのは私だけではないハズ。DVDのジャケにある「赤ちゃんペンギン」の姿は冒頭にちょっと出るだけですぐに成長した姿になるので、amazonのレビューにも「かわいいペンギンの話だと思ったのに騙された」という内容がチラホラ見られます。

逆に「赤ちゃんペンギンが踊る映画」なんかに興味のない自分としては、まったくのノーマークだった訳ですが、スターチャンネルで放送されるので、軽〜い気持ちで見始めたらこれが大傑作でした!

以下、ネタバレ含みます。


「歌がうまい方がエライ」という皇帝ペンギンのコミュニティで生まれた音痴の主人公マンブルが、差別や偏見と戦いながらも自己表現としてダンスを踊る、というのがストーリーの骨格ですが、ここでは「ハンディキャップを持った主人公の苦悩」「保守的な社会におけるマイノリティの立場」「父親との確執」といったテーマが見え隠れします。

あげくに長老により追放されたマンブルはアデリーペンギンの仲間(スペイン語なまりで話しマンブルのダンスを「クール!」と絶賛)とともに、「魚が穫れなくなった理由」を調べるために「ロード・オブ・ザ・リングス」よろしく旅に出るのですが、ここではさらに「ジェネレーションギャップ」「異文化間の友情」「環境破壊」といったテーマが見えてきますが、映画はまだまだ続きます。

このあたりから「エイリアン」の存在が浮上します。「クジラをも殺して喰ってしまう」「カモメは捕らえられて体に器具を埋め込まれる(アブダクション)」という噂が徐々に判明。そのエイリアンに向かって単身で乗り込むマンブル。しかし、辿り着いた先にあったのは故郷の南極そっくりの水族館の中。

近くにいたペンギンに訪ねるマンブル。

「ここはどこなんだい?」
「ここはペンギンの天国だよ、デイブ」

「デイブ」とは誰か?

おそらくは「2001年宇宙の旅」のデビッド・ボーマン船長のコトでしょう。ボーマン船長はモノリスに導かれてエイリアンと接触し、高級ホテルのような一室に辿り着きます。ここまで来てようやくこの映画の最大のテーマが「エイリアンとのファースト・コンタクト」だと判明します。

ここからさらに「未知との遭遇」を思わせる壮大なクライマックスシーンに続き、結果ダンスを踊るペンギンの存在を知った「エイリアン=人類」は「南極を禁漁区にする」ことにして、映画はハッピーエンドを迎えます。実に多彩なテーマを盛り込みつつ、最後に見事にまとめあげた脚本が素晴らしくて大変感動しました。

そんな私の感動をぶっ飛ばした同映画のレビューがこちら。

映画の結末は一見ハッピー、しかし実にグロテスクです。ペンギン帝国に帰還したマンブル、背中に「発信器」を取り付けられている。マンブルのおかげで食糧難は解消、ペンギン帝国は安泰、めでたしめでたし、ですけれど、これは果たして本当のハッピーエンドなのか? という疑問がむくむくと頭もたげます。

 背中に発信器をつけられ、ヒトに保護・管理・監視されて生きるのが、本当の人生(ならぬ、ペンギン生)と言えるのでしょうか? さらにペンギン帝国は「唄の巧さ」に至上の価値を置く世界だったはず。ヒト様に喜んでもらうため、それまで忌避していたダンスを踊る始末です。生き残るためとはいえ、そんな簡単に伝統を投げ捨ててよいのか?

 ラストにおいてペンギン帝国は、『1984年』的な超管理社会に変質したのである。ヒト=ビッグ・ブラザーというわけですね。

(中略)

さらに。マンブルが動物園に収容されて以降のお話が、すさまじくご都合主義的な展開をみせるのに観客(私)は、あきれ果てるわけですが、これはひょっとして……、動物園に閉じこめられ精神を病んだマンブルの見た妄想なのではあるまいか? と一人ごちました。

 マンブルは動物園の中で、自分が帝国へ還る夢を永遠に見続けているのでは? さながら『未来世紀ブラジル』のタトル氏や『トータル・リコール』ダグラス氏のように…。なーんてなことを考え、あまりの恐ろしさにテリブルテリブルとつぶやいたのでした。

「ハッピー・フィート」 | レビュー | 京都カフェ・オパール Cafe Opal

ガーン。

確かに水族館で絶望したマンブルは、両親や友達の幻影まで見るノイローゼ状態になり、エサの時間にぼーっと口を開けて待っているだけの魂が抜けたような存在になってしまいます。

ボーマン船長はホテルのような部屋で老人のように変化し、さらに人類からスターチャイルドへと進化しましたが、マンブルはどうだったのか?実は「未来世紀ブラジル」で廃人となったサムの頭の中で陽気な「ブラジル」が流れていたように、彼の頭の中でも「KISS」(プリンスの名曲でマンブルの父の十八番)が流れていたのではないのか?

...実際、そこまでシニカルに考えるよりは「人間とペンギンとの共生」くらいにとどめる方が自然かな、とは思います(思いたい)。いずれにしてもそういった深読みも含めて色々と解釈できる映画なのでした。

監督は「マッド・マックス」「ベイブ」のジョージ・ミラー。いずれも「異端児」が主人公というのがポイントですかね。オーストラリア人繋がりでヒュー・ジャックマンニコール・キッドマンが声優として出演してます。オーストラリアの人の南極に対する想いというのも北半球の我々とは少し違うような気がしました。

加えてここまでふれなかったCGについてですが、生まれたての赤ちゃんペンギンのフワフワした質感は当然として、CGでしかありえない壮大なカメラワーク(高い崖から海に飛び降りるシーンが最高!)や、美しい南極の風景が随所で楽しめます。終盤に登場する人間が実写(を、CG加工してるのかな?)だったのもびっくり。ペンギン達をあまりデフォルメせずにリアルに描いたのはこの為かもしれません。DVDよりもBlu-ray等ハイビジョンで見ることを強くオススメ。

その他の小ネタ。
・プリンスは自身の「KISS」を映画に使用する許可を求められた際に、一旦断った後、完成直前の映画を見て使用を許可したそうだ。それだけでなくエンディングテーマ「Song of the Heart」を書き下ろして提供し、結果ゴールデングローブ賞主題歌賞を受賞。いい話だ。

2001年宇宙の旅 [DVD]

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